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Another (アナザー)

綾辻行人 [著] ; 上, 下. -- 角川書店, 2011. -- (角川文庫 ; 17112-17113).
ISBN:9784041000014
巻号:上
総合評価:

1

お薦め本:展示【2021.1】

この作品は、綾辻先生によるミステリーホラー作品だ。まずは簡単なあらすじから。物語の舞台は夜見山北中学校。とある事情で転校してきた主人公、榊原恒一はひときわ異彩を放つ少女、見崎鳴と出会う。彼女はなんと、クラスの皆から“無視”されているのだ。まるで——いないものであるかのように。異常な環境下の中、クラスメイトが突然死亡してしまい、それを皮切りに次々とクラスの人間が血に染まっていく。惨劇を止めるため、連続死の謎に迫る、というストーリーだ。

この本を初めて読んだとき、私はホラー小説だとは思わなかった。なぜなら、この作品の最初の方はあまり恐怖を感じないからである。主人公が転校して暫くは、いつもと変わりない、平凡な日常が描かれる。限りなく平和で、あらすじを知っていてもつい忘れてしまうほどである。だからこそ、“惨劇”が始まったときに読者は一気に絶望と恐怖の穴に突き落とされることとなるのだ。
この作品に慈悲は存在しない。作中で名前がある人物も虫けらのように死んでいく。ゴア表現も巧みである。読んでいて情景がありありと頭の中に浮かぶばかりではなく、まるで自分がその場にいるかのような不気味さと衝撃を与えてくれる。映像化されたものを見たら間違いなくトラウマものである。
ここだけ聞くとせっかちな人は耐え切れず本のページを畳んでしまうだろうが、少し待ってほしい。今作のヒロイン、見崎鳴の存在である。あらすじにもある通り、彼女はクラスの皆から“無視”をされている。
ここが面白いところだ。平凡な日常の中にこの要素を入れ込むことにより、読者は常に「どうして彼女はこのような扱いを受けているのだろう」という疑問を頭の片隅に置きながら読み進めていく。この“謎”こそが、一見退屈とも見える日常パートに不思議な雰囲気を持たせ、物語を読み進める原動力となっている。つまり、飽きさせないつくりになっているということだ。
キャラの心情描写も上手く表現している。自分が次に死ぬかもしれないという恐怖により、クラスの人間は次第に不信感を抱くようになる。そして物語の終盤では、そんな感情に駆られた人同士の争いに発展してしまう。本当に恐ろしいのは人間であると再認識させられた。
最後には、この事件の首謀者が明かされる。この作品の凄いところは設定やストーリーだけではない。幾重にも張られた伏線である。事件の犯人を知ってからもう一度読み直すと、全ての伏線が繋がっているのだ。非常に丁寧で、後付けさを全く感じさせない。ホラーとしての印象が強い本作だが、ミステリーとしての面白さも十分にある。


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